震災当時の様子

二度の被災、
原点であるものづくり、
人とのつながりが生んだ、
水なしで使えるトイレ

MobiRestはn=1を突きつめたプロダクトでもあり、そこには2011年東日本大震災と2019年の台風19号で被災した経験が深く関わっています。

東日本大震災では、何度も震度6以上の地震が発生しましたが、電気はすぐに復旧しました。しかし、地中の水道管は大きなダメージを受け、復旧には長い時間がかかりました。また、台風19号による河川氾濫で社屋が床上浸水し、近隣の浄水場が機能停止。復旧に数週間を要しました。給水車に女性やお年寄りの方がたくさん並び、何度も往復している姿を見て、水道インフラの脆弱さを痛感し、対策の重要性を強く意識するようになりました。

別な話になりますが、社員のチームビルディングの一環としてアウトドア研修のキャンプ事業を進めていました。台風災害から2年後、国立公園内の湖畔に面した絶景スポットの土地を取得し、キャンプを行いましたが、トイレが遠く不便で十分に楽しめませんでした。その時、「どこでも手軽に使えるトイレがあれば…」と。昨今、自然や文化など地域特有の魅力を体感するツーリズムが提唱されていますが、インフラ整備には高額な費用がかかりますし、自然環境を守りたいという思いもある。手軽に移動・設置できるトイレがあれば、地域の魅力を活かしながら絶好のロケーションでのキャンプやイベントも多くの人に楽しんでもらえるのではないか、と考えるようになりました。

こうした経験が重なり、「日常」と「有事」で利活用できるトイレを作るという構想が生まれました。私たちは長年、車載用品の商品企画から仕様決定、部品調達、アセンブリ、納品までの一貫したスキームや取引先を持っており、そのノウハウを活かすことに。MobiRestでは扱う部材が大型化するだけなので、「とにかくやってみる!」という精神で挑戦し、形にしていったのです。

震災当時の様子

SNSの
「仮設トイレは使いたくない」

能登の被災地に向かう
きっかけに

2024年1月の能登半島地震では、SNSで発信された 「避難所生活の現状」こそ私が被災地に向かう大きな動機になりました。

「トイレが外にあって遠い」「夜に仮設トイレを使いたくない」といった避難所での声を聞き、仮設トイレが不便なだけでなく、避難者のストレスにも大きく影響していることに気づきました。その時、「MobiRestを使ってもらうしかない」と強く感じました。まだ1台しかなかったものの、避難所のそばに安心して使えるトイレを設置し、少しでも支援したいと思いました。

従来の仮設トイレは、地割れした道路が復旧するまで大型車で運ぶことができません。しかし、MobiRestは軽トレーラーに搭載されており、自家用車で牽引可能なため、ご縁があった石川県穴水町役場へ支援にすぐに駆けつけることができました。震災直後の1月6日から5月頃まで、避難所となっていた介護支援施設にMobiRestを設置し、支援を続けていました。

長期設置を経験して感じたのは、運用のしやすさの重要性です。従来の仮設トイレや水栓トイレ付きの大型トイレトレーラーは、給水車とし尿汲み取り用のバキュームカーが必要で、どちらかが欠けるとトイレが使えなくなります。しかし、被災地では道路事情が悪く、大型車が通りにくいことが多く、さらに汚物を被災地外の処理施設まで運ぶために、運用が非常に大変だったと聞きました。

MobiRestは、約2週間分のフィルムとポリマーの在庫で安心した運用ができました。物流が回復すれば消耗品も補充でき、給水車やバキュームカーがなくても長期間清潔に保つことが可能です。設置後、現地ではフィルムカセットの交換と汚物を燃えるゴミで捨てるだけなので、自分たちで清潔なトイレを管理・維持できるのです。

震災当時の様子

イベントを通じて認知を高め、
ポピュラーな移動式トイレに

MobiRestはみなさんに普段からイベントで使ってもらって、 有事の際には活躍するトイレにしたいんです。

大きな災害からの教訓として、多くの自治体が災害支援物資の貯蔵を始めています。しかし、十分な備えをしても、定期的な管理や使い慣れがなければ、いざという時に機能しません。例えば、単純な発電機でも使い方を忘れたり、ガソリンが腐ってエンジンがかからないといった問題が発生する可能性があります。

もちろんトイレも普段から使用していると、運営側もユーザーも安心感があり、使い勝手も向上します。だから、MobiRestは「災害用」として保管するだけでなく、地域イベントなどで普段から使ってもらうことで、より身近で安心感のあるトイレにしたいと考えています。

例えば、MobiRestを100人程度の小規模なイベントや短期のイベントで使ってもらうことで、運びやすさや使い勝手、コスト面での利便性を実感してもらえます。また、利用者が増えれば、有事の際にもスムーズに機能するでしょう。今後は自治体やNPO、民間など多様な団体と協力し、MobiRestの普及を進めていくことを目標としています。

震災当時の様子

PROFILE

震災当時の様子

橋場慶彦

カーエレクトロニクスメーカーのアルパインに18年勤め、36歳でクルーズプランニングを創業。マーケティング視点でのアイデアが認められて古巣のアルパインから逆オファーを受け、独創性とものづくりの仕組み化で着実に事業を拡大。今では40名の社員を率いる。中心であるカー用品事業のほか、リハビリ介護事業、キャンプ事業、さらにMobiRest開発まで、将来を見据えて社会に必要なものづくりに挑戦している。

座右の銘 【隗より始めよ】

私たち零細企業は、打席に何回立つかです。イチローは3割打者で「世界のイチロー」と呼ばれる。つまり10回打席に立って3本ヒットを打てば世界に通用する。でもイチローじゃない私たちが1本のヒットを出すには、数百回は打席に立たないと。数が大事なんです。だから、とにかくやってみる。挑戦する姿勢を大事にしています。

Topページへ戻る